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2020年05月18日
ミュージシャンの「いま」を知りたい〜Vol.2 三井大生さん(ヴァイオリニスト)〜
様々な立場のミュージシャンならびに音楽に携わっている人に、普段の仕事や現在の状況について話を聞く「ミュージシャンの『いま』を知りたい」。第2回目は「フリーランス」のミュージシャンの方にお話を伺います。
<前回 https://www.yajirobe.jp/hirokokokubu/>
必ずしも社会的に認知されているとは言い難い「フリーランス」という働き方。実際はどんな感じなのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、ヴァイオリニストの三井大生さん。
「フリーランス」、つまり特定のプロダクションに所属せずに活動しておられるミュージシャンです。
そして、わたしが大学生のときのジャズ研究会の、ギターパートの大先輩でもあります!
ヴァイオリンとギターの二刀流
今回はご協力ありがとうございます。何年か前に、同じ部活の先輩の紹介で、三井さんのライブに足を運びました。ヴァイオリンでバリバリにジャズのアド・リブを弾きまくる姿が私にはとても新鮮で、よく覚えています。三井さん、大学のジャズ研究会ではギターパートだったから余計に印象深かったです。
ヴァイオリンは4歳ごろから、ギターは中学生からやっていました。で、高校生ぐらいからはヴァイオリンは弾かなくなって、それからはずっとギターをやっていましたね。
そもそもヴァイオリンが先だったんですね。またヴァイオリンを弾くようになったのはいつからですか?
大学卒業後、一旦は就職したのですが、何年か経ってから脱サラしてミュージシャンをやろうと決めました。その時も、最初はギタリストになろうと思っていたんです。でも、たまにヴァイオリンを遊びで現場に持って行ったりすると喜ばれることが多くて、それでだんだんヴァイオリンの仕事が増えていったという感じです(笑)
そんな経緯が!笑
今でも、ライブには両方持っていって使う時もありますよ。
「二刀流」ですね(表現が陳腐でごめんなさい)。
自宅でできるこんなこと
昨年、三井さんが配信リリースされた”Strings Swing Basie”を 聞かせてもらいました。カウントベイシー楽団(※)のナンバーを弦楽器の多重録音で演奏したものですが、ヴァイオリンもギターも素晴らしいですね。カウント・ベイシーに精通する三井さんだからこそできる音楽だなと感じました。というか、今度ギター教えてください……!
(※)カウント・ベイシー アメリカのジャズ・ピアニスト。自身のオーケストラを携える、ジャズを志す者なら知らない人はいない、と言っても過言ではない存在。ここでわたしが下手な説明をすれば、すぐさまどこかから矢が飛んできそうになるほど神格化されている。なので、説明はこのぐらいで勘弁してください。
ありがとうございます(笑)
この音源はどのようにレコーディングされたのですか?
もともとはライブ用の準備音源として自宅で制作したものなのですが、作ってみたらまあまあいい感じでメンバーからの評判も良かったので、盤(CD)までにはせず、配信という形でリリースしてみました。
なんと!自宅で作ったのですね……! とてもそうは思えないクオリティ。
はい。ヴァイオリンとギター以外は打ち込み(※)ですが。
(※)生楽器の録音をせず、データとして音情報の入力を行うこと。
打ち込みでここまでのものが作れるとは……!技術の進歩を感じます。
このご時世で打ち込みを始めた人が増えましたが、一昔前はこのように自宅で作品を完結できるミュージシャンが少なかったので、仕事でも重宝しました。YouTubeなどで動画を作る際に自由に使っていい「著作権フリー」の音源を作る仕事もあるのですが、それも作曲から録音まで自宅でひとりで完結できます。
ご自宅にはなにか特別な録音環境があるのですか?
いえ、ヴァイオリンやギターはそこまで大きな音が出る楽器ではないので、部屋でふつうにマイクを立てて録っています。
なんとまあ。技術の進歩ですね。もはや、ずっと家で作業できるじゃないですか!
はい、ずっと家にいるのが苦にならないタイプですので、最近の状況でもあまりストレスは感じていません。
演奏家は「家にいるのが苦にならない」、わかります。わたしも楽器をやるので。
われわれミュージシャンはこうやって家にいる時間が増えても、曲を作ったり、楽器を練習したりするじゃないですか。それが達成感に繋がって、メンタルに良い作用を及ぼしてくれると思うんです。なので、ただただ「外出自粛」を余儀なくされている人たちは、そろそろ精神的に参っているのではないでしょうか。そこが心配です。
確かに。この前、ウェブで友人と話したのですが、彼は普段外でバリバリ仕事しているので、今は完全リモートになって困っている様子でした。「人と話せない!あー!」って。
普段のお仕事と現状
コロナの一件で、お仕事にどんな影響が出たかをお聞きしたいです。まず、これまでに手掛けられたお仕事には、どんなものがありましたか?
主には
・有名アーティストのサポートメンバーとしての演奏やレコーディング
・自分や友人のライブの企画や演奏
・ホテル・レストラン・結婚式などでの演奏
・自宅での録音やレッスン
などですね。
外での演奏やレコーディングは、やはり全てキャンセルに?
そうですね。今あるのは先述した著作権フリー音源の録音ぐらいで、あとの仕事はほぼ全て無くなってしまいました。CMやアーティストものの自宅録音も、業界全体が冷え込んでいるので動きが悪いです。ツアー系も、収束の見通しが立っていないので、新規のブッキングはまだ進まないようです。つい先日も、10月に開催予定だった演奏が中止になってしまいました。
10月のが!まだ5ヶ月も先なのに。もうやってられないですね……。
会場のキャンセル料などを考慮すると、このタイミングで決めなくてはならなかったのでしょうね。
「ライブの開催に1000万、チケットの売上で1200万」というツイートを先日見かけたのを思い出しました。ライブの規模が大きいと、動く金額も大きいですものね。
ライブを中止する事となりました。
— 田口 達也【ノンラビ】アルバムオリコン1位獲得👑 (@Ace8trriger) February 26, 2020
コロナウイルスに感染していなくとも、生活が困難になる事実を政府に届けたい。 pic.twitter.com/Xug29souav
その他にも、結婚式はキャンセルですし、レストランも「ピアノひとり」とかの演奏に切り替えてしまって(※)、ヴァイオリンの出番がなくなっているような状況です。フリーランスのミュージシャンをやって15年ほどになりますが、これほどまでのことは今までありませんでしたね。
(※)なお、現在(5/17)は「ピアノひとり」の演奏すら無くなっている、とのこと。状況が悪化している……。
ただ、フリーランスでやっていると、普段から社会的信用のなさを実感しているので、これも仕方ないと思っている部分はあります。決して「安定した仕事」ではないので。だからこそ、定期的に入るホテルやレストランの仕事はありがたかったのですが。
ううむ……。そんな中でも、直接顔を合わせられないからこそ、インターネット上で演奏動画を作ったり、レッスンを行ったりする方もおられますよね。三井さんの動画も拝見しました。ベースとバイオリンがここまでマッチするとは。
ありがとうございます。自由な時間がたくさん増えたので、気が向いたら友人のwebセッションに参加してみたり、将来の自分の企画ライブの準備をしたりしています。が、締め切りがないと追い込みがきかないこともあり、効率はあまりよくないです。レッスンもオンラインでやってみましたが、会話はともかく演奏は音質が今ひとつで、生徒さんの評判は正直あまり良くないです。
いくら技術が進歩したとはいえ、オンラインで「同時に」演奏するのは、まだ難しいと。それでも、困難な状況のなか様々なチャレンジや試行錯誤を続けていらっしゃるんですね。
今回の「コロナ禍」を通して
最後に、今回の件で感じたことを教えてください。
たくさんの人の前で演奏する機会が失われているのはとても残念なことで、またお金の面での不安は正直ありますが、保証・補助の制度も出てきているので、それに期待するよりしょうがないです。一市民としては、例えば行政のリーダーシップの欠如など、皆さんが感じていることとあまり変わりはないと思います。
1年ほど前から音源を各サブスクリプションで配信しています。ご自宅でのBGMがわりに聞いていただければ嬉しいです。
ありがとうございました。コロナが収束し、”Strings Swing Basie”のライブをやる際には足を運びます!
おわりに
技術の進歩により、ミュージシャンが家でできることは確かに増えた。とはいえ、業界全体が冷えてしまったら元も子もない。
前回、国府さんのインタビューでも「土壌」の話が出たが、そこが今回の大きな課題であるのかなと、なんとなく見当がついてきた。ひとたび「音楽にお金を使わない」「ライブを聴きに行かない」という習慣がついてしまうと、業界はどんどん右肩下がりになってしまうのではないか。
でもねえ、
こんなの見たら「ああ……やっぱり生で聴きたい!!!」
ってなりませんか。わたしはなるぞ。
「ミュージシャンの『いま』を知りたい」
次回は少し趣向を変えて、ライブハウスのオーナーさんにお話を伺います。報道でもなにかと取り上げられることの多かった「ライブハウス」、ここ何ヶ月間かはどのような状況だったのでしょうか。お楽しみに。
追記:
という訳で、かなり感化されやすいわたしも、友人たちと協力して自宅で曲を作ってみた(こいつ……ちゃっかり宣伝してやがる……)。
こういうのも楽しいけど、やっぱり生でみんなと合わせたいなあ。
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