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2020年12月07日

M-1グランプリに挑戦したい

お笑い賞レースの最高峰・M-1グランプリ。2020年は史上最多の5081組が予選にエントリーしているという。

その「1/5081」がわれわれだ。そう、じつは先日、あの「M-1」の予選に参加してきたのだ。

お笑いをかじったことすらない素人がコンビを組み、ネタを作り、審査員の前で舞台に立った。その顛末を語りたい。

この記事を書いた人

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Facilitator / Musician / Writer

高田ゆうぞう

YUZO TAKATA

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1992年鳥取県生まれ。英語を教えたり、オーケストラでギターを弾いたりしている。サウナと麻婆豆腐が好きなので、やたらと汗をかく。

ゼロから出ようM-1の予選

「M-1の予選に出る」とはいえ、わたしは芸人の養成学校に通ったわけでもなければ、人前でネタを披露するどころか、ネタを作ったことすらない。生粋のド素人である。

 

しかし、お笑い番組は昔からずっと見てきた。爆笑オンエアバトル、エンタの神様、笑いの金メダル……。テレビデオ(懐かしい!)での予約方法を会得したのも、お笑い番組見たさゆえである。

 

そして、わたしは仕事柄、普段から人前で話すことが多い。少なくとも、その経験は活かせるのではないか。

 

うん、なんだかやれそうな気がしてきたぞ。「お笑い番組を見てきた」と「人前に慣れてる」だけを拠り所に、お笑い最高峰(の入口)に挑みたい。

 

まずは相方探しから

 

まずは相方だ。

 

じつは、すでに目星をつけている。同じバンドメンバーのシバサキ氏だ。かれこれ10年来の付き合いになる。

 

顔ハメパネルとの記念撮影が趣味の29歳

 

彼は大学の同級生で、部活の宴会でともに司会をしたことで仲良くなった。いまも音楽に限らずいろいろなことをして遊ぶ仲だ。

 

「公私ともに」という言葉があるが、友人という関係性が「私」なら相方は「公」になると思う。ずっと「私」だったシバサキ氏が今回いきなり「公」になるというのは、なんだか少し恥ずかしい。

 

「コロナ禍」のネタ作り

 

次にネタ作り。できればファミレスなどでともにアイデアを出し合うのが理想だが、あいにく私は関西、相方は関東に住んでいる。加えて、コロナ禍真っ只中でもある。 よって、どうも予選前日までお互い顔を合わせられそうもない。

 

しかし、時は令和。離れていたって、なんの問題もない。漫才だって、リモートでできるのだ。

 

とりわけ、今回のネタ作りにおいて活躍したのが以下の3つである。

 

 

①Zoom

 

 

今回はアイデア出しからネタ合わせまで、ビデオ通話を使い倒した。これで、漫才全体の流れの確認もできる。こんなのがあったら、今後、公園でネタ合わせをする芸人の姿は見られなくなるかもしれない。

 

 

②Google Document

 

 

台本の作成にはGoogle Documentを活用。ドキュメント上で台本のベースを共有し、Zoomで打ち合わせをしながら各々がリアルタイムで修正を加えていった。これで、離れていても「一緒に」台本を組み立てることができた。

 

 

③GarageBand

 

 

GarageBandは音楽制作アプリである。歌や楽器の演奏を録音し、音量や再生位置などを修正して音源を作るツールで、ミュージシャンである我々には馴染み深い。

 

こちらは、漫才のボケ・ツッコミのタイミングを練習するのに役立った。Zoomだと、どうしてもタイムラグが出てしまうが、GarageBandはそれぞれが録ったものを切り貼りし、お互いの理想のタイミングにしたものを音源として確認できるのだ。もちろん、このファイルもクラウド上で共有できる。

 

このように、令和のツールをフル活用してネタを固めていった。

 

しかし、いざやってみると……

 

 

だが、人生初のネタ作りは想像以上に難航した。特に大変だったのは以下の3点だ。

 

 

①書き言葉と話し言葉は違う

 

最初に書いたネタ。面白いところがひとつもない

 

先ほど「仕事で人前で話すことが多い」と述べたが、実のところ「話す」より「書く」ほうが得意だと思っている。相方もそうらしく、台本はわりとスムーズに書けた。

 

だが、文章だと面白そうな感じがするのに、いざ読み上げるとしっくりこないのだ。改めて、「書き言葉」と「話し言葉」は全然違うということに気づかされた。

 

 

②演技力が求められる

 

(自分たちが作ったので当たり前だが)われわれは漫才の展開をあらかじめ知っている。それなのに、舞台ではそのボケを初めて聞くようなフリをしてツッコまなくてはならない。

 

よく考えたら、これは異常なことだ。完璧にやり切るには、かなりの“演技力”が問われる。芸人さんがテレビドラマによく呼ばれるのもわかる気がした。

 

応募書類に添付した写真

 

 

③結局、スタンダードな形に落ち着く

 

せっかくやるならありきたりのものでなく、少しでも斬新なものにしたい。 ということで、いろいろ案を出した。

 

・ひたすらピンとこないツッコミをする

・ふたりともボケる

・あえて淡々と話を進める

 

……もうお気づきだと思う。いずれも、すでにやられているのだ。また、トリッキーな設定や世界観のネタを2分(予選一回戦の規定時間)の漫才に落とし込む技量など、素人のわれわれにあるはずもない。

 

結局、5本ほどネタを書いた時点で、ボケ・ツッコミの役割がある程度決まっている、スタンダードな形に落ち着いた。

 

ならば、せめてコンビ名だけでも攻めた感じのものにしようと、「日本人が笑う」にした。しかし、考えてみたら大それた名前だ。

 

いよいよ決戦の地・関東へ

 

9月下旬。いよいよ予選へと向かう。

 

 

関東入りしたのは予選前日。神奈川・菊名にある相方の家で、もろもろの最終確認をすることにした。

 

 

だが、在宅ワーク真っ最中の相方は、このタイミングで仕事が佳境に差しかかっていた。

 

 

なんとか収束してくれることを祈りつつも、わたしにできることは特にない。とりあえず一緒に鴨南蛮を食べに行った。美味しかった。

 

その後、なんとか仕事が落ち着いたようなので、いよいよネタ合わせに入る。 実際に顔を突き合わせて「漫才」をするのはこれが初めてだ。

 

上手・下手の立ち位置もこの時に決めた。

 

録画をして気のおけない友人に動画を送り、感想を仰ぐ。

すると、こんなアドバイスが返ってきた。

 

・もっとジェスチャーがいる

・もう少し詰まらずにスムーズに話せるといい

・感嘆詞的なもの(ああ、とか)をもっとちりばめる

・ツッコミが優しすぎる

 

総論としては、「メリハリが足りない」ということらしい。思いのほか的確なダメ出しに感謝しつつ、ものすごく初歩的なことができていないと(本番前日に)気づいて焦る。

 

しかし、いまさらジタバタしても仕方ないので、決起集会へ。

 

予選当日

 

さあ、当日である。予選会場は「よしもと幕張イオンモール劇場」だ。

 

菊名から2時間以上かけて最寄りの海浜幕張へ

 

海浜幕張駅には我々同様、これから予選に臨むであろう人々が散見された。こういうのは、匂いでわかるものなのだね。

 

会場のイオンモールに到着。

 

予選会場はイオンモールの最果てにある。あたりを行き交う人々は、ここでヒリヒリとした戦いが繰り広げられているとは夢にも思わないだろうな。

 

ほんとうに来てしまった……

 

そして、いよいよ集合時間がやってきた。

 

 

なお、会場内は撮影禁止だったので、以下、雰囲気だけお伝えする。

 

出演料を支払うと、劇場の舞台裏に通される。なんだか、ギョーカイジンになった気分だ(と余裕ぶってるけど、実際は不安と緊張でガチガチでした)。

 

舞台裏にいる他の出場者を見ると、みんな若い……。28歳の我々が完全に「おじさん」に分類されてしまうくらい、若者だらけだったのが意外だった。

 

ちなみに、例年なら一回戦からお客さんが入るのだが、今年はコロナの影響もあり無観客での開催となっている。構成作家さんなどの審査員3名とスタッフさんだけを相手に、漫才を披露するのだ。

 

最初は無観客だから少しは気楽なのかなと思ったが、他のコンビが出番を終えるにつれ、これはこれでなかなか辛い状況だと気づき始める。お客さんはおらず、漫才を観るのは「きびしい」審査員だけ。当然、会場はずっと「無音」。

 

笑い声のない舞台での漫才は、さながら工場のようだ。それが「人がいないから」なのか「面白くないから」なのかは判断がつかないが。

 

そして、ついに出番が。

 

公式HPに一枚だけ写真があがっていた

 

われわれ「日本人が笑う」は、こんな漫才を披露した。

 

 

 

 

 

……終わった。審査員からの笑い声は聞こえなかった。まあ、そんなもんだろう……。

 

それでも、これまでで一番「うまく」できた実感はあった。

 

練習では規定の2分を超えてばかりだったが、本番は時間内に終えることができた。また、音源化したものを何度も聴いていたおかげで、ネタを飛ばすことも噛むこともなく終えられた。

 

安堵の本番直後。エントリーナンバーの1293は特別な番号になった

 

しかし、無難にまとめられた気がするというだけで、手応えがあったわけじゃない。いや、明らかになかった。「次」に進めるかどうかなんて期待する気にもなれなかった。

 

結果は……!

 

結果発表は当日の夜中。

結果はわかり切っているが、それでもドキドキしてしまう。

 

敗退。

 

敗退でした。書くまでもない。

 

まとめ

 

我ながら無謀な挑戦、いや「挑戦」というのもおこがましいが、エントリーしたこと自体に後悔はない。

 

プロの芸人さんも踏む「舞台」に立ったこと、玄人中の玄人であるM-1の審査員の前でネタを披露したこと、全てが得難い経験になった。そして何より、友人と一つのものを作り上げ、本番で成果を問うプロセスは楽しかった。

 

思わぬ「効能」もあった。他人と会話をする際に、多少ではあるが「ウケる」ようになったのだ。漫才の訓練を通じて、「メリハリ」のつけ方を意識するようになったからかもしれない。コミュニケーションを教える先生は、授業に漫才をとり入れてみたらいいのではないかと思う。

 

ちなみに、相方はすっかり熱を上げてしまったようだ。「来年も出よう」と、早くも息巻いている。その思いに応えられるかどうか現時点ではわからないけど、とりあえず今年のM-1決勝は、いつも以上に気持ちを込めて楽しめそうだ。