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2019年12月16日

じいちゃんのラーメンを食べたい

じいちゃんのラーメンを食べたい。

僕が小学生の頃に同居していた祖父は家事をしない人だったが、授業が午前中で終わる土曜日には気まぐれのようにインスタントラーメンを作ってくれた。それが妙にうまかったことを覚えている。

じいちゃんが亡くなって約20年。もはや記憶の片隅にしかないあのラーメンを、もう一度食べたい。関係者への取材とおぼろげな記憶を頼りに、「祖父ラーメン」の再現を試みた。

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小野洋平(やじろべえ)

YOUHEI ONO

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1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。いくつになっても横断歩道の白線は踏んで渡ります。

祖父ラーメンなどと大層に書いたが、特別な調理をしていたわけではないし、珍しい食材を使っていたわけでもない。そもそもインスタントラーメンである。

 

それでも、たとえば具材には必ず豚肉と固まりのニンニクが使われていたりして、祖父なりのこだわりポイントはいくつかあったのだと思う。

 

とはいえ、不確かな筆者の記憶だけで祖父のこだわりを具現化するのは難しそうだ。そこで、故人のラーメンを知る、数少ない関係者のもとを訪ねた。  

 

 

関係者こと小野たかひろ氏は祖父の息子。要するに、ぼくの父親である。祖父との付き合いも長く(さすが息子!)、おそらく件のラーメンを誰よりも食べてきた人である。

 

豚バラ&ニンニクに、野菜たっぷりの豪華ラーメン

じいちゃんのインスタントラーメン? ああ懐かしいな。俺も学生の頃は、よく作ってもらったよ。

 

なぜか美味しかったよね。俺の記憶だと、豚肉とニンニクが入ってた。

 

豚バラは安いから冷蔵庫に常備してたし、ニンニクはじいちゃんの好物だったからな。田舎の山形に帰った時にいっぱい貰ってくるから、うちにはいつも大量のニンニクがあった。

あとは、その時に冷蔵庫にある野菜を使ってたな。俺は白菜とネギがたっぷり入ったやつが特に好きだった。

 

けっこう豪華だね。ニンニクの印象だけが強かったけど、そんなに具沢山だったっけ?

 

お前はかわいい孫だから豪華版だったんだろう。俺が子どもの頃なんて、具なしの素ラーメンもあったぞ! 

 

 

50年越しに根に持たれましても…。ちなみに、どのインスタントラーメンを使ってたか分かる?

 

「サッポロ一番」だったな。特に「みそ味」がじいちゃんのお気に入りだった。野菜たっぷりのラーメンには、みそ味が合うからね。

 

だんだん思い出してきた。確かに、ごろっと固まりのニンニクが、みそ味とマッチしてたような…。

 

え? ニンニクは固まりじゃなくてスライスしてあったろ?

 

いやいやニンニクは固まりだった。初めて食べた時めっちゃホクホクしてて、じゃがいもかと思ったもん。

 

それはたぶん手を抜かれたんだな。たかが孫に食わせるためだけに、いちいちスライスするのがめんどくさかったんだろう。

 

「かわいい孫」じゃなかったのかよ!  

 

 

ともあれ、貴重な証言を得ることができた。さっそく調理にとりかかろう。

 

材料は「豚バラ」「ニンニク」「サッポロ一番みそラーメン」、それから今回は野菜たっぷりの“豪華版”を再現するため白菜とネギも使用する。あと、父親によれば「味の素」も使っていたらしい。  

 

 

じいちゃんのラーメンは野菜の切り方や入れる順番にもルールがあるとのこと。より再現度を高めるべく、父親の指導を仰ぎつつ調理にかかる。  

 

 

まずは鍋に入れる水の量な。最初に丼に水を入れて、それを鍋に移すのがじいちゃん流。野菜から出る水の量も計算して、丼の8分目くらいだな。こうすると、スープの量と濃さがちょうどよくなるだろ。  

 

 

一人前だったら白菜は2枚くらいかな。葉は大きく、芯はやや小さめにザク切りな。

 

 

ネギの白い部分は斜め切り、青い部分は縦に切る。じいちゃんは田舎の人だから、ネギの青い部分もしっかり使ってたぞ。ちなみに同じ野菜でも部位によって火の入り方が違うから、鍋に入れる順番もポイントな。

 

 

…なんか、思った以上にしっかりルールがあるな。インスタントラーメンといえどもおざなりにせず、最大限においしく食べようという気概が感じられる。  

 

 

 

というわけで、入れる順番を何度も確認しイメージトレーニング。  

 

 

まずはニンニクを投入し、中火にかける。  

 

 

沸騰したら白菜の芯と豚バラを投入。ニンニクの香りが立ち昇り、早くもうまそう。  

 

 

豚バラに火が通り白菜の芯がくたっとしたら、すかさず麺を入れる。  

 

 

麺がほぐれ始めたところで、ネギの青い部分を散らし、白菜の葉をぶちこむ。  

 

 

粉末スープはここで投入。  

 

 

スープが全体に行き渡ったらネギの白い部分を入れる。最後に投入するのは、ネギの風味を残すためらしい。そんなところにまでこだわってくれてたのか、じいちゃんよ! 全く気づかず、ただうまいうまいしか言えなくてごめん。  

 

 

そして、最後に「味の素」で味を決めれば祖父ラーメンの完成だ。

 

どれくらい入れるの?

 

そんなの「好み」でいいんだって!

 

ここまで細部にこだわってきたのに、なんで最後だけざっくりなんだよ!  

 

20年ぶりの「祖父ラーメン」を食す

とにかく、完成である。

 

 

う、うまそう。  

 

 

正直、見た目はあまり覚えていない、でも、確かこんなんだったような気がする。具沢山で色合いも良く、食欲をそそるビジュアルだ。しかし、重要なのは味。遠い記憶の中の一杯に、果たして迫れているのだろうか?  

 

 

早く食べたいが、親父の撮影タイムでお預けをくらう。

 

 

 
 
 
 
 
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#本日の昼飯#亡くなった親父のレピシ#サッポロ一番みそラーメン #旨い#懐かしい味 #具沢山#満足感すごい #ラーメン#インスタント麺#ニンニク入り

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さっそくインスタにアップしていた。もうすぐ60歳にしては、ハッシュタグの使い方がこなれている。

 

それはさておき、いただきます!  

 

 

むむ! こ、これは…。  

 

 

…じいちゃんのラーメンだ…。土曜日のお昼の味だ。 固まりニンニクのホクホク具合も、あの時のものと完全に一致。

 

懐かしくて思わず涙がこぼれ…たりはしなかったけど、20年ぶりの思い出の味はやはり感慨深いものがある。

 

 

念のため、親父にも食べてもらい再現度を判定してもらう。  

 

 

見事に味を受け継いだな、三代目よ。

 

 

そんな「一子相伝の味」みたいな感じをいきなり出されても困るが、合格ということらしい。始祖のラーメンが2代目から3代目へ伝承された瞬間だ。  

 

 

スープも完飲。うまかったなあ…。  

 

 

もしかしたら思い出補正が乗っかっているだけで食べてみたらガッカリ…なんてこともあるかもしれないと覚悟していたが、小学生ぶりの祖父ラーメンはちゃんとうまかった。

 

何より、孫に食べさせるインスタントラーメンに、ここまでの手間をかけてくれていたことに感動する。料理は愛情というが、子どもの頃は気づくことのなかった祖父の愛を20年ごしに受け止めることができた。

 

この味をしっかりと記憶し、いつか小野家伝統のレシピとして、まだ見ぬ四代目、五代目へと受け渡していきたい。

 

今回の「やりたいこと」にかかった金額

サッポロ一番みそラーメン(一食分) 79円
長ネギ(一食分) 33円
ニンニク(一食分) 149円
味の素(一食分) 5円
白菜(家にあったやつ) 0円
豚バラ(家にあったやつ) 0円
266円