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2020年01月11日
ロマンスカー展望席の最前列に乗りたい
小田急ロマンスカーには「展望席」と呼ばれる席がある。フロントガラスのすぐそばに設けられた眺めのいいシートで、列車1本につき16席のみの特別な空間だ。
なんとこの度、その最前列のチケットがとれたのだ。
出発日は1月5日。どこへも出かけず寝正月だった冬休み。そのラストに、スペシャルな列車旅を堪能してきた。
チケットが取れた時は興奮した。
ロマンスカーの展望席は人気で、特にわずか4つしかない最前列はかなり倍率が高い。予約ができる1か月後までは当然のように全て埋まっている。また、オンライン予約は午前10時の受付開始と同時に“秒”で完売してしまう。正攻法では、まあ取れない。
あまりの取れなさに嫌味のひとつも言ってやろうかと小田急に電話したら、親切に予約のノウハウを教えてくれた。
●オンラインよりも駅窓口で駅員さんに直接頼んだほうが取りやすい
●午前9時50分くらいに駅員さんに相談し、10時の予約受付開始と同時にアタックしてもらうといい
●朝の新宿駅や急行停車駅は混雑するため、各駅停車駅(参宮橋、代々木八幡など)の窓口に行くといい
翌朝、さっそく参宮橋駅の窓口を訪ねた。この日は12月5日で、1月5日ぶんの予約受付が開始される。アドバイス通り、10時の受付スタートと同時にアタックしてほしいと伝える。なお、午前の便は人気でライバルが多いため、新宿14時台発のロマンスカーを狙い撃つべくスタンバイしてもらう。
すると、(あっさり)とれた。よほどラッキーだったのか、参宮橋の駅員さんのパネル早打ちスキルがすごかったのか。ともかく1月5日の最前列チケットが2枚とれたのだ。
16時に箱根湯本に着くという、旅としては中途半端な行程。だが、今回は展望席がメインで観光はおまけ。翌日は仕事で泊まれないので、何か箱根らしいものでも食べてすぐ帰ろう。
まさに特等席
それから1か月。いよいよ出発の1月5日を迎えた。この日に備え、存分に怠惰な正月を過ごしたため、おでかけへの意欲もびんびんに高まっている。
楽しみすぎて1時間前にはホームに着いていた。ホームにある「ロマンスカーカフェ」で目の前に発着するロマンスカーを眺めながら、僕らの列車が到着するのを待つ。
ちなみにロマンスカーには現在5つの車種があり、そのうち展望席がついているのは「GSE(70000形)」と「VSE(50000形)」の2車種である。フロントガラス最前列に座席があり、運転席はその上部に設けられている。この2階運転席からの見晴らしもきっと最高だろうな。ここに座りたくて運転士を目指す人もけっこういるんじゃないだろうか。
そして、僕ら(同行者は妻)が乗るロマンスカーがやってきた。ロマンスカー・VSE(50000形)のほうだ。フロントに2020年のステッカーが貼ってある。
ここから先が展望席。一般席とゆるやかに区切られていて、まさに「特等席」という感じがする。この一番前が僕らのシート。
でかくて頑丈そうなフロントガラス(超大型3次元ガラスというらしい)には中央の窓枠がないため、風景が広く切り取られる。映画館のスクリーンのような、迫力ある景色を楽しめそうだ。
引き出しテーブルは奥行がしっかりあってパソコン仕事も快適にできる。ここで仕事をしてしまうような罰当たりがいるはずもないけれど。
最新オフィスチェアの技術を取り入れたというシートの座り心地もいい。シートピッチが広くとられているので、リクライニングを倒さなくてもぜんぜん窮屈じゃない。まあ、もっとも僕は前のめりで景色を堪能する所存だから、もとより倒すつもりもないのだが。
全てが素晴らしい。ワクワクする。旅にさほど興味のない妻も「これはさすがに上がるわ~」と言っている。
そんな珍しくアゲアゲの妻と僕を載せたロマンスカーは定刻通り新宿を出発した。
そこから約1時間30分の旅路は、想像を超える楽しさだった。興奮して写真を818枚も撮ってしまったほどだ。
まずは軽くダイジェストを。
都心のビルや家屋、木、駅、橋、田畑に山、様々な景色がビュンビュンと迫っては消えていく。対向列車がすれ違う迫力、目の前の線路を飲み込みながら目的地へと突き進む力強さは最前列でしか味わえないものだろう。
唯一の難点は、逆光でずっとまぶしいことである。
最前列はいい景色と引き換えに日差しをまともに浴びることになる。冬の午後の強い逆光に照らされた自分は美白を通り越してもはや神々しかったが、そのありがたさは今いらない。サンバイザーなどを用意しておくべきだったかもしれない。
ホームから写真を撮ってもらう
新宿を出たロマンスカーは代々木上原や下北沢などを通過し、経堂駅へ差し掛かろうとしている。じつは経堂にはデイリーポータルZの林編集長が住んでいて、駅のホームから写真を撮ってくれるというのだ。恐れ多くもありがたい。
経堂駅のホームを通過するロマンスカー。
あ、林さんだ!
直後に林さんから送られてきた写真がこちらである。駆け抜ける一瞬の表情をとらえたナイスショットだ。我ながら、いい笑顔をしているなと思う。おれ、こんなふうに笑えたんだな。
林さんにお礼のメールを打ち、再び前方へ視線を戻す。列車は世田谷の住宅街を快調に駆け抜け、最初の停車駅・町田に到着した。
ホームに着くと、一斉にスマホを向けられた。みなさんのお目当てはロマンスカーだと分かっていても、スターになったようで気分がいい。最前列にいる今の僕らは彼らの写真にばっちり映り込む。いわば「ロマンスカーの一部」でもあるので、精一杯いい顔をしておいた。
なお、隣の2席に座っていた親子は町田で降りた。わずかな区間でも我が子に最前列を体験させてあげようということなのだろう。お父さんの鏡だね。
町田を出発すると、妻の関心は景色からシラス弁当へとシフトしつつあった。
僕は金目鯛の西京焼弁当。駅弁も列車旅の醍醐味だが、終点まで残り1時間を切っているため今回はちんたら食べているヒマなどない。1分で弁当をかきこみ、景色を目に焼きつけることに集中した。
鉄道橋を渡る。鉄骨がヒュンヒュン流れていくのがかっこいい!
大きくカーブするホームと屋根。この角度からだと曲線の美しさがよく分かる。
トンネルを抜けると・・・
ドーンと富士山が現れた。秦野駅を過ぎたあたりから真正面に富士山をとらえることができるのだ。正月らしい縁起のいい景色。いい年になりそうだ。
小田原駅を過ぎてすぐ、左手に小田原城が見える。
小田原駅-箱根湯本駅間では小田急線と箱根登山電車が線路を共有している。小田原駅に乗り入れる箱根登山電車とすれ違ったら箱根はもうすぐだ。
ここで線路のポイント(分岐)が切り替わる瞬間というレアなシーンが見られた。
そして、とうとう終点の箱根湯本へ。
夢の時間が終わってしまう・・・。
パパラッチの歓待を受けつつゴール。もはやスターを超えて時の人。地元に凱旋した金メダリストである。ロマンスカーの威を借りて英雄気分を味わうことができるのも、展望席ならではといえよう。
この楽しすぎる体験がわずか90分で終わってしまうなんて殺生だ。また乗ろう、絶対に。意味もなく新宿と箱根を往復してやろう。
3時間で箱根を満喫する
ともあれ、箱根に着いた。時刻は16時。帰りのロマンスカー(一般席)は19時40分なので、あと4時間弱ある。長いような短いような中途半端な時間だ。遠出するほどの猶予はない。なので、やることを絞った。
●16:00-17:00 温泉
●17:00-18:00 夕食
●18:00-19:00 散歩と土産
完璧だ。シンプル&コンパクトな美しいスケジュールである。
箱根湯本駅から徒歩5分の「立寄り湯処 和泉」。箱根湯本温泉発祥の湯であるという。よく知らない土地では、「発祥」や「三ツ星」などの分かりやすい権威に従っておけばいい。
中は昔ながらの公衆浴場という雰囲気で居心地がいい。また、内湯のほか洞窟風呂や露天風呂もあるなど充実していた。
休憩室で生ビールも飲める。しかし、飲むともうここから出られなくなってしまうので、今回は我慢して外へ。
湯上りの火照った身体に、冬の冷たい外気が心地いい。
夕食はネットで評判のよかった「知客茶家(しかぢゃや)」へ。箱根の名水で作る豆腐と山芋が名物らしい。暴飲暴食の限りを尽くした正月の最後に、胃にやさしそうなメニューがありがたいではないか。
でもビールは飲んでしまうのだけれども。
麦とろ膳1050円。麦めしに味噌仕立てのとろろをたっぷりかけて食べると…
お、おいしい・・・。
「ごちそうを頂いているな」と感じる。ごちそうとは肉のことだと思っていたが、麦とろ膳には動物性たんぱく質がひとつもないのにしっかり満足感があった。
食後は夜の温泉街を散歩し
お土産に干物を買った。
そして、やることがなくなったので駅前のルノアールで時間をつぶした。その気になれば、箱根は3時間で満喫できるのだ。僕らが単に旅がヘタというだけかもしれないが。
なんとルノアールのお会計が2020円であった。夫婦の共同作業(注文)でタイムリーな数字が出たことに2人で和む。今年も、こんな感じのことで喜べる1年を送りたい。
帰りは一般席で東京へ。
ロマンスカーはもちろん、駆け足の箱根観光も含めていい旅になった。
ちなみに、ロマンスカーの展望席は一般指定席と同じ価格で片道2330円(新宿-箱根湯本)である。往復の交通費と日帰り温泉、食事、土産を合わせても1人1万円を切る。あまりお金がかからず、運と少しの行動力だけで特別な体験ができるのがいい。そういうものをたくさん見つけることが、人生を楽しむ鍵なんだろうと思う。
今回の「やりたいこと」にかかった金額
ロマンスカー(往復) | 4660円 |
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麦とろ膳 | 1050円 |
サバのみりん干し(土産) | 800円 |
入浴料 | 1250円 |
7760円 |