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2020年11月02日

ミート高沢の「この肉がスゴイ!」〜渋谷「新井屋」の“面脂(めんあぶら)”〜

焼肉なんて食べ物は、どこで食べても美味い。近所のチェーン店だろうが、煙モクモクの大衆店だろうが、レストランのような高級店だろうが美味い。そう思っていた。

しかし、お肉好きの友人の話によると、同じ焼肉でも、お肉の品質はもちろん、切り方や焼き方ひとつで、味はだいぶ変わってくるそうだ。彼は「不味いところは不味い」。そう言い切る。

30歳も近づいてきた筆者。そろそろ、お肉の味の違いもわかっておきたいところ。というわけで、今回は友人が推薦する「美味しい焼肉屋」に連れてってもらい、本当に美味しいお肉を味わってみた。

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小野洋平(やじろべえ)

YOUHEI ONO

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1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。いくつになっても横断歩道の白線は踏んで渡ります。

「お肉にとりつかれた男」が激推しする焼肉屋へ

訪れたのは渋谷駅から徒歩7分の「新井屋」。かの友人曰く、予約必須の人気店だという。  

 

肉に関しては超たのもしい友人のミート高沢さん(左)。新井屋の店主・新井さん(右)ともツーカーの仲

 

こちらが、友人の「ミート高沢さん」である。365日、お肉を食べることは当たり前。週5日は各地の焼肉屋に通い、残りの2日は牧場や畜産に交渉して買い付けた日本中の和牛を堪能。日々、美味しい食べ方を研究している。失礼だが、狂っている。

 

そして、お隣が新井屋の店主、新井さん。ミート高沢さんとはプライベートでも交流があるそうで、到着するやいなや、お肉談義に花を咲かせている。

 

 

話が高度すぎて入れないので壁の色紙をぼんやり眺めていると、錚々たる有名人のサインのなかになぜか「ミート高沢」のサインが。千原ジュニアさんと藤沢とおる先生に挟まれている。何者なんだ……ミートさんよ。

 

少し遅れて、お肉の卸業者の中川さんも合流

 

なお、今回はミート高沢さんの友人であり、新井屋さんをはじめ、東京の焼肉店にお肉を卸している「芝浦ほるもん」の中川さんにも参加いただいた。お肉を生業にするプロの中川さんも「この店はすごいですよ!」と太鼓判を押している。

 

期待値が上がりまくったところで、新井屋のメニューを見ていこう。

 

 

定番のお肉から、聞いたこともないような名前のホルモンまでズラリ。なにを頼むべきか迷ってしまう。だって、全部食べたいんだもの。

 

「小野くん。もう、お肉は予約済みだよ!」

 

「え!? 席だけじゃなく、お肉も予約してるんですか?」

 

「うん。お肉の予約はマストじゃないけど、事前予約をしておけば目当ての部位を間違いなく食べられるからね。あと、お店によっては“美味しい部分”を確保しておいてくれるのよ」

 

 

予約の段階でお肉の部位まで決めておくとは……。焼肉をとことん楽しみ尽くしやろうという、とてつもない意気込みを感じる。

 

片や、そこまで真剣にお肉と向き合っていなかった自分が恥ずかしい。

……いや、本当はべつに恥ずかしくないけど、ちょっと気合を入れ直してテンションをもう一段階上げておこう。

 

新井屋の「神ホルモン」を食らう

 

今回、ミート高沢さんが予約したお肉は全部で7種類。全てホルモン系であるという。曰く「ここは特にホルモンの質が素晴らしいんですよ」とのこと。

 

ひとつずつ、じっくりとレポートしていこう。

 

 

①厚切り炙り上レバー焼き(1200円)

 

 

「これがレバーなんですか? 羊羹みたいに“ピン”と立ってる!!」

 

「このレバーはスゴイよ」

 

「というと?」

 

「普通のレバーって当たり前に筋が入っているのよ。でも、このレバーは筋が入らないようにトリミングしているの。だから、羊羹のように綺麗に直立するわけ」

 

「なるほど。丁寧な仕事だなあ……」

 

「本来、レバーって全体で6kgくらいあるんだけど、この形にする場合、2kg〜3kgはトリミングしているはず」

 

「もったいない……気もするけど、それだけ良い部分だけを厳選してくれているわけですもんね?」

 

「そうだね。とはいえ、削った2kg〜3kgだって、普通に美味しいんだよ。多分、これは原価割れしてるはず(笑)」

 

 

レバーは軽く表面を炙り、「ごま油」+「塩」でいただく。

 

プリっとした食感に、口にまとわりつくレバー独特の甘み。それでいて、生臭さは皆無。ドギモを抜かれる美味しさだ。

 

 

②ホルモン/シマチョウ(850円)

 

 

「めっちゃ綺麗なピンク色ですね」

 

「ありがとうございます」

 

「??? なぜ中川さんが感謝を?」

 

「これ、僕が卸しているお肉ですね(笑)。特にうちは、ホルモンには気合いを入れているんです」

 

「こんなピンク色の状態で焼肉屋に並ぶことなんて少ないよ」

 

「ホルモンって適切な処理をせずに時間が経ってしまうと、青くなったり、黒ずんでいくんですよ。だから、綺麗なピンク色をしているのは、新鮮かつ丁寧に処理をした証なんです」

 

 

「これまた、すごい脂ですね」

 

「関東だと、シマチョウは皮と脂の比率を1対1にしているところが多いんだけど、新井屋さんで使う肉は脂を最大限まで残しているのよ。これって、シマチョウ自体が良くないとできないことなんだよね」

 

「そもそも、シマチョウって脂がめっちゃ付いている部位なんです。で、僕らはそれを処理する仕事なんですけど、新井さんからは『脂を落とさないでほしい』って言われたんですよ」

 

「そういうオーダーは珍しいんですか?」

 

「はい。それで文句を言われても仕方ないって気持ちで、脂をこれでもか!ってくらいに付けて納品したら『これぐらいが良い』と(笑)。そんなこと言う焼肉屋さんはいなかったので困惑しましたよ」

 

 

「このままロースターで焼いていると焦げるので、一旦、網に移しますね」

 

「網まで用意されているなんて、親切なお店ですね」

 

「いや、これは家から持ってきたんだよ」

 

ミート高沢さんの「マイ網」&「マイ蒸し焼き蓋」。焼肉屋に行く際の必需品であるという。もちろん、お店の許可は得ている

 

「これさえあれば、お肉は絶対に焦げないし、いざとなれば炭火でも使えるから便利だよ。焼肉を本気でやりたい人はオススメ」

 

「マイ箸ならまだしも、マイ網持ってる人は初めてです」

 

「せっかく最高のお肉なんだから、最高に美味しく食べたいじゃない」

 

マイ網を使いこなすミートさん。陽気なファッションもマイアミっぽさがある

 

「俺、上やっちゃうから、中川さんは下をやっちゃってください」

 

「モンハンみたいな会話してるな」

 

 

そして、食べ方は「お酢」+「青唐辛子」のタレがオススメとのこと。

 

「シマチョウの脂を引き立たせてくれるタレです。酢に唐辛子の味が移っていくのがいいんですよね」

 

「ちなみに、ここの青唐辛子は韓国産のガチで良いものを仕入れているから、そのまま食べても美味しいのよ。普通の青唐辛子だったら青臭さが残るし、ここまで辛味も感じないよ」

 

 

「是非、シマチョウと青唐辛子を一緒に食べてみて」

 

「もう食べてます!……ん〜まい! 脂も美味しいし、簡単に噛み切れる!」

 

「良いホルモンはそうなんですよ。ホルモンが苦手な女性って多いけど、それは噛み切れないからだと思うんです。でも、実際はカルビより味は軽いので、噛み切れさえすれば、好きな人は多いはずなんです」

 

「これって、良い牛肉を使っているからなんですか?」

 

「もちろん、牛自体の良さも大事だけど、中川さんの処理も大きいと思う」

 

「うちはホルモンを乾かすんです」

 

「乾かす??」

 

 

「ホルモンは内臓なので、洗わないと汚い部位です。重要なのは、洗い終わった後に乾かして水分を飛ばすことなんですよ。というのも、水って腐り始める最大の要因なので」

 

「なるほど!」

 

「ゆえに、水分さえ飛ばしてしまえば、新鮮で長持ちするんです。余談ですが、この方法はうちの親父が日本で初めて実践したんですよ」

 

「すごっ!! 他の卸業者はやらないんですか?」

 

「少しずつ増えてきたようです。ただ、10kgの小腸があったとして、水に濡らしておけば12kgになるんですよね。つまり、重さが増える分、儲かるんです。だから、やるところは少ない。今の時代、そこまで処理しなくても十分売れますから」

 

「手間もかからず高く売れるんだったら、別にやる必要ないと思っちゃいますよね」

 

「でも、乾かすだけで持ちが良くなるし、旨味も凝縮するんだけどね。ちなみに『ホルモンが美味しい焼肉店は洗い方が上手』って聞いたことない? あれは嘘だと思うよ。中川さんのように卸の段階でしっかり処理がされていれば、店の人が洗う必要なんて一切ないんだもん」

 

「めちゃくちゃ勉強になる。僕が焼肉屋だったら授業料を払いたいくらい」

 

 

③特選厚切りタン塩(2980円)

 

 

「うひょ〜! 僕、タンが一番好きなんですよ」

 

「これは、タンの中でも一番良い部分だよ。タンの“元の元”だけを使っている。タンは1頭につき1.2kgぐらい取れるんだけど、この部分は400gか500gほどしか取れないから」

 

「つまり、この一皿で牛1頭分!?」

 

「そういうこと」

 

肉は全部ミート高沢さんが最高の状態に焼いてくれる

 

「あと、新井屋さんのタンが美味しいのは、提供する直前に切ってないからなんだよね」

 

「え、切りたての方がなんとなく美味しそうですけど? 新鮮っぽいし」

 

「おそらく、切ってから半日くらいは寝かせてると思うんだよね。そうすると、味がしまるのよ。逆に、切りたては味が薄いらしい」

 

「たぶん、それも乾かすってことだよね。お肉の余計な水分を飛ばしているんだと思う」

 

「そこが新井屋さんの技術なんだろうね。変に素人がやると、腐食しちゃうから」

 

分厚いタンの側面を押し付けるように焼く

 

「3枚同時に焼くんですね」

 

「これは単純に焼きやすいから。でも、焼き具合なんて結局は好みなのよ。どれだけ綺麗に焼けても、“よく焼き”の人(※)にレアを食べさせても美味しいわけがないんだから。焼肉を存分に味わいたいなら、自分の好きな焼き加減を知っておくといいよ」

(※よく焼いた肉を好む人。まんまですが)

 

「わかりました。でも、僕はまだ自分の好みがよくわからないのでお任せします。オススメの焼き方を教えてください」

 

 

「俺はまず、表面部分だけを焼くかな。これは肉汁を一切こぼしたくないから」

 

「まずは外側を焼いてコーティングするような感じですかね」

 

「ローストビーフ的なイメージだね。ちなみに、この3枚、ロースターに置いた場所によって焼き具合が違うのわかる? 左側に比べて、右側の方が火力が強いの。この火力の差に気付かないとムラができるから気をつけて」

 

表面が焼けたら、再び網へ「避難」させる。タンもほっとしていることだろう

 

 

と思いきや、ナゾの機械をタンに刺すミートさん

 

「高沢さん、今度は何をされているんですか?」

 

「お肉の温度を計っているよ。適切な温度で食べた方が美味しいからね」

 

「温度まで……。こだわりが変態的ですね……」

 

最後に、蒸し焼き蓋をかぶせる

 

「お肉の温度によって、そこまで味って変わるんですか?」

 

「全然違うね! 特に50〜60℃の間ではかなり変化するよ。硬さだったり、肉汁の具合も1℃の違いでけっこう変わってくる」

 

表面を炙った際のタン内の温度。タン内ってなに?

 

「何度がベストなんですか?」

 

「人によるけど、俺は60℃まで持っていきたいかな。ホルモンだったら60℃超えるくらい」

 

一旦、網をロースターから離し、余熱でじわじわと温める

 

仕上げに表面をカリッとさせるために軽く焼く

 

これだけの丹念な焼きの工程を経て、ようやく最高のタンが完成する

 

「う、うつくしい……」

 

これだけ焼いても中身はレアだからね。前歯で噛みちぎれるよ。この断面すごいでしょ?」

 

 

「最高すぎ。舌をまく美味さ……」

 

 

④特選厚切りハラミ(3980円)

 

 

「うっわ! 今日も良いハラミが入ってる!」

 

「食べる前から、すでに口が美味しいですね」

 

あまりの神々しさに、思わず写真を撮るミート高沢さんと中川さん

 

「新井屋さんはお肉の管理温度が低いから、サシも綺麗に見える。トリミングも綺麗」

 

「ハラミって元々まわりが脂だらけなんですよ。だから、削げば削ぐほどマイナスになるんですけど、完璧にトリミングしていますね」

 

「多少、脂をつけたほうが美味かったりもするけど、見た目がね」

 

「やはり、卸業者の中川さんとしては焼肉屋さんに“良い仕事”をしてもらえると嬉しいものですか?」

 

「もちろん。優劣はつけてないけど、そういうお店には、より良いお肉を卸したくなりますよね」

 

タン同様、ハラミも表面を炙り、肉汁を閉じ込める

 

「新井屋さんでは常にこのクオリティのお肉が食べられるのよ。今日は取材だからとか、知り合いだからとかは一切関係ない、それがスゴイところだよね」

 

そして、網に移したら例によって肉の温度を測る

 

「ハラミも60℃ですか?」

 

「それくらいかな。でも、ハラミは味が濃いから何度でも良いと思う。正直、どうやっても美味いのよ。ここだけの話、生でも美味しいから。ただ、焼くと脂が出るから、さっぱりが好きな人はレアの方良いかな」

 

焼きあがったハラミは、わさびと一緒にいただく

 

「超美味しいです。“お肉の繊維”を感じます。マジでこんなの食ったことない」

 

断面。キラキラと輝いていらっしゃる

 

 

⑤特選厚切りサガリ(3800円)

 

 

こんなに良いサガリをここまで分厚くトリミングする大衆焼肉は、東京ではなかなか無いよ」

 

「サガリって知らない人がほとんどじゃないですか? でも、ハラミよりすごいと思うんですよね」

 

「すみません、サガリってどこの部位なんですか?」

 

「ハラミの真ん中の部分ですね」

 

焼き方は先ほどと同じなので飛ばします

 

「ってことは、味もハラミと似てるんですか?」

 

「ハラミより脂がきつくないから、さっぱり食べられるかな」

 

完璧に焼きあがったサガリ

 

「ハラミは1頭に対して2本だけど、サガリは1本。だから、ハラミより希少な部位なんだよ」

 

「そう。だから、流行ったら困っちゃう」

 

肉汁が今にも溢れだしそう

 

「思ったよりも脂がしつこくないし、噛み応えもサクっとしていて美味い!!」

 

「もうね、歯がいらないのよ。本当に美味いサガリを知っちゃうと、元には戻れないからね」

 

ご満悦

 

未知の味「面脂」に悶絶

 

「さあさあ、次が本日のメインイベンターだよ」

 

「えっ? まだ主役が出てきてなかったんですか?」

 

「うん。今日はこれをぜひ食べてほしかった。面脂(めんあぶら)です」

 

 

⑥面脂(750円)

 

 

「確かに美味しそうですが……。すみません、メンアブラってなんですか?」

 

豚の顎の辺りだね。昔は牛でも取れたらしいよ」

 

「これはね、新井さんがとある老舗の超名店で修行していたからこそ、メニューとして出すことを許された逸品なの。新井屋に来て、面脂を頼まない人はたぶんいないんじゃないかな」

 

通りかかった新井さんに焼いてもらった

 

「これは美味しい焼き方ってあるんですか?」

 

「脂がいっぱいなので、しっかりと焼いた方がサクサクした食感になって美味しいですよ」

 

 

「うまそう……。お酒にも合いそうですね」

 

「ビールでもハイボールでも何でも合いますよ。僕もお酒を飲む時は、この面脂をひたすら食べていたいです」

 

面脂は「酢」+「青唐辛子」で

 

「本当だ、サクサクとした食感が楽しい! さっぱりとした甘い脂と、ピリッとした青唐辛子の酸味との相性も最高ですね。無限に食べられる!」

 

「このタレがヤバイよね。普通に飲めるもん」

 

 

⑦BIGハツステーキ 香草バター(1100円)

 

 

「これは……何ですか?」

 

「豚の心臓だね。豚のハツを丸ごと焼いた、これも新井屋さんの看板メニュー」

 

 

「この溶けてるのは何ですか?」

 

「これは、香草の入ったバター。これに絡めて食べてみて」

 

生でも食べられるくらい新鮮なため、ミディアムレアでいいそう

 

溶けたバターにたっぷり付ける

 

ギザギザの切れ込みがバターをより絡みやすくしている

 

「……………………………。」

 

「小野くん、どうしたの?」

 

「すみません、言葉が出ないくらい感動してました。ハーブの香りをまとったコクのあるバターと、豚ハツのうまみが見事に噛み合ってる。牛とは違う、豚のサクサク感もたまらないですね」

 

「フフフ。この店、いいでしょ?」

 

「もう、初っ端から最後まで、全部の肉が期待値を超え過ぎていました。焼肉って、こんなにスゴイものだったんですね……」

 

***

 

冒頭、焼肉はどこも美味しいなんて発言したことが恥ずかしい。最高峰の焼肉は、別次元の世界だった。

また、どのお肉にも味に個性があり、焼き方を変えればまた味が変わり……。 これはもはや、食事を超えたエンターテイメントだと感じた。

 

とんでもなく奥が深そうな焼肉の世界を、これからもミートさんに教わっていきたいと思う。

 

新井さん、ごちそうさまでした

 

【取材協力】

お肉しか載ってない、ミート高沢さんのインスタグラム

https://www.instagram.com/meat_takazawa/

 

高品質のお肉を卸す、中川さんの「芝浦ほるもん」

http://www.shibahoru.com/?fbclid=IwAR06Vzxl3zQ-KOM6wCU0ygeQaevMzE2VmTQt-IGFHXrlwS8PgZAPlsal5Jw

 

【今回お伺いした焼肉屋】

新井屋

http://yakiniku-araiya.jp/